私達のまわりには様々な種類の“音”が存在しています。これらの“音”は“好ましい音”と“好ましくない音”の2つに大きく分けられます。“好ましい音”というのは「好きな音楽」、「鳥のさえずり」等で、“好まし<ない音”というのは「自動車や鉄道の走行音」、「工事現場の音」、「工場から出る音」等があげられると思います。しかし、“好ましい音”も人によっては“好ましくない音”になるかも知れません。私達は、この“好ましくない音”を一般に“騒音”と呼んで、これらの音を自分達のまわりの環境からできるだけ無くそうとしています。また、法律や各種の規格によって規制しています。ところが、このできるだけ無くそうとしている“騒音”が満ちあふれた環境の中で仕事をしなければならな い人達がいるということにも注意しなければなりません。
この様な作業環境に於ける騒音に注意が向けられたのは意外に古く、1713年に Bernardio Ramazziniという人が“De Morbis Artificum Diatriba(働く人々の病気)”という本の中で、鍛冶屋が年をとると難聴になることや滝壺のそばに住んでいる人に難聴が多いことを書いています。1)これは、長い年月、高いレベルの騒音にさらされると難聴になりやすいということを示しています。そこで、作業環境騒音に対する規制も、聴力を保護するという目的から始まりました。
一方、近年では、騒音の影響というのは聴覚だけではなく、作業能率、聴取妨害による安全性の低下、聴覚以外の生理面への影響(血圧や心拍数の変化、内分泌系への影響等)、ストレス等の心理面への影響があることも明らかになってきました。
ここでは、これら作業騒音の中で仕事をする人達の聴力を保護するために作られたISOの規格であるISO 1999関係の最近の動向と、聴覚以外への影響も考慮した、現在審議中の規格案ISO DP 9612の概要を紹介します。
■ISO R1999(1971)の改訂
ISOでは、1971年にISO R1999“Assessment of occupational noise exposure for hearing conservation purpose(聴力保護のための職場騒音暴露の評価)”という規格を提案しています。この規格では、500Hz、1kHz、2kHzの聴力損失の平均が25dB以上の場合に聴力が損傷されたと判定することになっています。このレベルは、会話に不自由を感じない程度の聴力が保たれるか否かをめどとして定められていますが、目的によっては周波数の範囲と聴力損失ありとみなすレベルを変更することも勧告しています。作業騒音の評価は、騒音レベルを作業者の耳の位置でslowの動特性で測定して、行うこととなっています。そして、1日に8時間、1週間に40時間、1年間で50週間という作業時間を基準として、等価騒音レベルLeq, 8hで何dBの騒音に何年間暴露されると聴力障害者が何%出るかを示しています。騒音にさらされる人々の聴力障害者出現率と、暴露されない場合の聴力障害者出現率の差(聴力障害危険率)が、どのくらいになるかも、5年きざみで最大45年間までの暴露まで示してあります。この規格では、等価騒音レベルで何dBなら許容できるということは定められておらず、各国の関係機関が自国の実状に合わせて、この規格を基に定めるべきであるとしています。
このISO R1999は1975年に国際規格ISO 1999として正式な規格となりました。その後、騒音の影響を受けていない人々の年齢別の聴力についての統計調査結果がまとめられ、その結果に基づいて、作業騒音による聴力損失と年齢による聴力損失を分けて評価することを目的とした、改訂作業が1980年から始められました。この作業に伴ない、規格の題名も“Determination of occupational noise exposure and estimation of noise induced hearing impairment(職場騒音暴露の測定および騒音性聴覚障害の評価)”と変更され現在、DISとして最終的なまとめが行われている段階です。
3. ISO DP9612“Guidelines for the measurement and assessment of exposure to noise in the working environment (作業環境における騒音暴露の測定および評価に関する指針)”5)の概要
この規格案は1980年にドイツから提案されたものを基にISOが審議を続けてきたもので、今年の初めに草案の第一稿が各国のメンバーに配布され、意見を求められました。その結果は今年5月にデンマークで行われたISO/TC43/SC1の会議で報告されることになっているので、近いうちにその内容も紹介できると思いますが、ここではこの第一案に沿ってこの規格案の内容を紹介することにします。
この規格案は作業環境における騒音測定の方法、測定位置の選び方、データを取り込む時間間隔の選び方、周波数分析の方法、また、日常的に騒音にさらされることによって作業者が受ける様々な影響について、評価するためには騒音のどのような特性を考慮しなけ ればいけないかを示しています。ただし、この規格案は、作業騒音の許容限度を示すことが目的ではなく、各国の関係機関に対して、騒音の測定と評価の指針を示すものであると性格づけられています。
聴力に対する影響の他に、健康、会話妨害、警報音、作業能率、快適さに対する騒音の影響についても述べられています。伝周波音や超音波についても、測定結果をどのように評価するか書かれています。
この規格案の最初のところでは関連するISOやIECの規格について述べられています。その中には前述のISO 1999も含まれている他、会話の明瞭度、防音保護具、警報音に関する規格も含まれています。
posted by 音の110番 at 08:22| 東京

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